近年企業のペーパーレス化が進み、企業間における取引の契約書や納品書、稟議書、見積書といった書類についても、電子化する動きが加速しています。しかし、契約書を電子化するには関連する法律を押さえ、電子化のための要件を満たす必要があります。
本記事では契約書の電子化によりもたらされるメリットや、契約書を電子化するにあたっての流れや注意点をご説明いたします。
契約書は紙書類で扱うのがこれまでのスタンダードでしたが、近年は次のような要因から、契約書の電子化が進んでいます。
2019年に働き方改革関連法が施行され、多様で柔軟な働き方を自分で選択できるようにすることを目指し、長時間労働の是正などが政府主導で本格的に始まりました。この流れを受けてリモートワーク、ペーパーレス化の推進が図られています。
またスマートフォンやタブレットが普及したことで、今や出社しなくてもあらゆる情報のやり取りがスピード感を持って行えるようにもなりました。書類を電子化することで、業務効率化やコスト削減など、多くのメリットが得られます。企業として契約書の電子化に取り組まざるを得ない状況になっていると言えます。
さらに、新型コロナウイルス感染症の流行に伴い在宅勤務への対応を余儀なくされたことから、電子契約の普及率が大きく増加しています。JIPDEC(一般財団法人日本情報経済社会推進協会)・ITRのアンケート調査によると、電子契約の普及率は2021年1月時点で67.2%に上りました。「今後の電子契約の採用を検討している」と回答した層も合わせると、電子契約に対し前向きな企業は84.9%となります。
業種によって状況に差はありますが、全体的な傾向としては契約書の電子化に向けて大きく進み始めたことが分かります。
参考:https://www.jipdec.or.jp/archives/publications/J0005167
契約書の電子化には、具体的に次のようなメリットが挙げられます。
契約書が電子化されることで、紙の印刷、回覧、差戻し、捺印・承認、郵送する手間など、手作業による業務を大きく削減できるようになります。在宅勤務もスムーズに行えて、スマートフォンなどで外出先や移動中でも業務を行えるようになり、業務効率が向上します。
契約書が電子化されれば、書類の印刷にかかっていたインク代・トナー代、コピー用紙代、複合機・コピー機の保守料、そして書類の郵送料がなくなるため、会社のコスト削減にも繋がります。
契約書が電子化されれば、その書類に関連する語句で検索し、目的の書類を簡単に見つけることができるようになります。どこに収納したか分からない保管庫から探す手間を想像すると、検索精度の向上も大きなメリットの一つです。
電子化された書類は、紙書類のように持ち出しによる情報漏えいリスクがありません。やり取りのログが残せたり、改ざんを防止する機能を持たせられたりと、コンプライアンスの強化という意味でも、電子化のメリットは大きいと言えます。
さらに、契約書が電子化されれば、保存スペースが不要になります。紙書類の保存のために書庫を借りたり、書類保存専用スペースや棚を設けたりしている企業は多いと思いますが、電子化されればオフィススペースの削減にも寄与します。
▼ペーパーレス化のメリット・デメリットについて詳しく知りたい方はこちら
ペーパーレス化のメリット・デメリットは?外出先・在宅でも業務を円滑に
IT化にともなってボーダーレスな社会が進みゆく今、ペーパーレスの目的は、意思決定スピードを含む競争力強化へと変化しているのです。 この記事では、ペーパーレスの変遷について振り返るとともに、今後ますます加速するであろうペーパーレス化を企業においてどう導入すべきか、具体的にご提案します。
一方、契約書を始めとした書類の電子化には、いくつかデメリットも伴います。
これまで紙書類で行われてきた業務を電子化するとなれば、対応フローを見直したり、新しいシステムを導入したりと、業務改善が必要となります。今まで成立していたフローを変えるには労力を伴い、現場の反対も起こりがちなのが実情です。
書類の種類にもよりますが、契約書の電子化は相手企業の理解があって初めて成立するため、自社の意思決定のみでは進めることができません。自社都合による変更で取引先の理解を得る難易度は高いといえます。
紙書類は目に見えることで心理的に安心できるので、手元に置いておきたいと考える方もいることが想定されます。しかし、当然ではありますが、契約書が電子化されれば、印刷物のようにモノとしては目に見えなくなります。
紙書類のように持ち出されるリスクがなくなるとお伝えしましたが、その一方で、電子化するとサイバー攻撃を受けるリスクは新たに発生します。電子化を導入する際には、セキュリティ対策が施されたシステムを採用することが不可欠です。
次に、契約書を電子化する際に確認しておきたい法律についてご説明いたします。電子化に関連する法律としては、e-文書法と電子帳簿保存法が良く知られています。
e-文書法とは、今まで紙書類による保存が義務付けられていた文書について、電子文書による保存を認めることを目的として、2005年に制定された法律です。具体的には「民間事業者等が行う書面の保存等における情報通信の技術の利用に関する法律」と「民間事業者等が行う書面の保存等における情報通信の技術の利用に関する法律の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律」の2つの法律を総称してe-文書法と呼びます。
電子化可能な文書には様々な種類があり、管轄する省庁も電子化するための要件もそれぞれ異なりますが、電子化を認めることを大枠で定めているのがe-文書法です。
▼e-文書法について詳しく知りたい方はこちら
e-文書法とは?タイムスタンプの役割もご紹介
本記事では、書類の電子化にあたって知っておくべきe-文書法や電子帳簿保存法について解説します。電子書類として契約書などの書類を保存するために満たすべき要件や、セキュリティを担保するために知っておきたいタイムスタンプについても、ご説明します。
電子帳簿保存法もe-文書法と同様、文書の電子化に関連する法律で、e-文書法より前の1998年に制定されました。こちらは国税庁が管轄する法律で、会計帳簿や国税関係書類の電子化を認めています。書類の電子化を促進することが制定の狙いです。
始めから電子データで作成した文書のみを対象としていましたが、2005年にe-文書法が制定されたことに伴い、契約書・注文書・請求書・納品書などをスキャンし電子書類として取り扱うことも認められました。ただし、電子化の要件は非常に厳しいものとなっています。しかし、2022年1月に施行された電子帳簿保存法改正により、紙書類を電子化する要件が緩和されました。具体的には紙書類の電子化に際して必要であった税務署による事前承認の廃止や、クラウドサービスなどを利用し電磁的記録の訂正・削除といった履歴が残せるのであればタイムスタンプの付与に代えられることなどです。
さらには、電子データで受け取った書類は電子データとして保存することを義務付けることも予定されています。電子化をしないと決めている企業にとっては非常に影響が大きい動きであり、これについては対処の義務化までに2年間の猶予が与えられています。
参考:https://business.nikkei.com/atcl/gen/19/00210/121500033/
参考:https://www.itmedia.co.jp/business/articles/2111/18/news074.html
電子帳簿保存法の改正によって電子化への敷居が低くなることで、今後ますます企業のペーパーレス化は進むと予想されます。シヤチハタの提供する「Shachihata Cloud(シヤチハタクラウド)」は、改正電子帳簿保存法にも対応したクラウド型の電子契約システムです。Shachihata Cloudのようなサービスを活用することで、利便性・コンプライアンス向上が図れ、コスト削減にも繋がります。
その他、特に不動産関係の書類においては、電子化が認められていない契約書が存在しているため注意が必要です。具体的には以下の契約書は、紙の書面による契約が義務付けられています。
(表)電子化対象外となる契約書の例
・定期借地契約書 ・定期建物賃貸借契約書 ・宅建業者の媒介契約書 ・不動産売買における重要事項証明書 ・マンション管理業務委託契約書 など |
不動産関連の契約書以外では、訪問販売や電話勧誘販売、業務提供誘引販売取引などにおける書面交付も電子化できません。
今後の法改正により規制が緩和される可能性はありますが、そもそも電子化の対象として良い書類かは事前に法律と照らし合わせて確認する必要があります。
続いて、取引先やパートナー企業との契約書を電子化する場合の流れとポイントをご説明いたします。
まずは法務の専門部署へ、契約書を電子化する説明を行うことから始めます。
建物賃貸借契約など、中には法律上、書面での作成・保存が義務付けられている契約書も存在します。管理体制、管理方法と併せて検討を進めましょう。
次に、現状取り扱っている契約書や業務フローの見直しを行います。重要度や発生件数、閲覧・参照の状況、契約締結までのフローを整理し、どの契約書を電子化の対象とするのかを設定します。
電子化の対象となる契約書を決めたら、取引先や社内関係者へ周知します。
取引先によっては紙の契約書が求められるケースもあるかもしれません。そうなった場合にどのような手続きを取るのかも検討が必要です。
社内への周知は混乱を招かないよう丁寧に行い、目的をしっかりと伝えて理解してもらうことがポイントです。
最後に電子契約システムを選定・導入します。契約書の内容を証明する方法としては、電子署名と電子印鑑の大きく2つの方法があります。日本では印鑑の文化が根強く残っているため、電子印鑑が押印でき、かつ高度なセキュリティ機能を有する仕組みを選びましょう。
電子契約システムは導入フェーズだけでなく、現場にその運用を定着させるまでに、様々な労力がかかることが想定されます。電子契約システムを選ぶ際には、次のような観点から検討すると良いでしょう。
システム選びにおいて高度なセキュリティレベルを保っているかは、企業にとって最も重要でしょう。セキュリティ対策の甘さから情報漏えいやデータ改ざん、悪用が行われた場合、社会的信頼性の失墜、大きな損失を招きます。
電子契約の契約主体が本人であることの証明はもちろん、契約締結後にデータが書き換えられることがないか、不正アクセスされるような隙を与えない仕組みになっているかなど、セキュリティ機能は十分確認をしましょう。クラウド型サービスならログイン時の多要素認証や、操作ログの取得、IP制限などが具体的なセキュリティ対策として考えられます。
契約書を電子化するシステムにはいくつか種類があります。クラウド型のシステムであれば、基本的にはインターネットへ接続できる環境さえ整っていれば、社内で特別な準備をせずとも簡単に導入できておすすめです。
また、契約書の電子化をするためのシステムが難解な場合は、せっかく導入をしても現場に定着せず、使われないという事態も起こり得ます。実際にシステムを使う従業員たちにとって使いやすい・分かりやすいインターフェースになっているかも重要です。
簡単な仕組みでも、不明点が発生するケースも多々あることと思います。困ったときのサポート体制が充実しているかも確認しておきましょう。ちょっとした疑問を解決できるサポートサイトがあることはもちろん、そこで解決できない場合に問い合わせ対応がスムーズに行えることが望ましいです。
これまで紙書類として扱っていた契約書を電子化する場合には、特に導入初期段階において少なからず既存業務への影響は出てしまうことが考えられます。極力既存の仕組みを変更せず、そのまま移管できるシステムを検討しましょう。
契約書の電子化により生産性は大幅に向上することが見込まれますが、導入したからといって売上アップに寄与するようなシステムではないとも捉えられます。業務効率化によって従業員の労働時間を何時間程度削減でき、それが人件費の抑制に繋がるか見立てを行い、有効性を明確にすることが大切です。同時に、システム導入時のコストも極力抑えられることが望ましいでしょう。高性能なツールほど高額になるので、自社の求めるレベルに見合ったスペックのシステムを検討してみてください。
契約書以外に電子化のニーズが高い書類としては、稟議書や見積書、納品書、請求書などが挙げられます。最後に、これらを電子化する際のポイントをご説明いたします。
稟議書は企業運営に関わる社内文書で、例えば人事採用、一定額以上の物品購入やシステム導入、出張の可否などで申請される書類です。稟議を通す際には申請、承認、決定というフローをたどり、何か不備があれば差戻し・再申請を要します。これらのフローが電子化でも問題なく回るのか、社内制度やルールの見直しが必要となります。
▼稟議書の電子化について詳しく知りたい方はこちら
稟議書の電子化 クラウドサービスを活用したワークフローや保存の課題解決
稟議書をはじめとする書類の管理には、保存期間・スペース・方法など、法律などが関連し、様々な問題がつきまといます。最近では、稟議書など書類の電子化やクラウドサービスの導入によって、書類保管の問題を解決することができます。今回は、稟議書の保存期間、そして企業が抱える書類保存の問題と、電子化のメリットをご紹介します。
見積書は、PDF形式など、既に電子化へ移行している企業も多い書類ではないでしょうか。見積書は取引先と複数回に渡りやり取りが成される書類の一つであるため、フォルダやドキュメントに統一性のある名前を付ける、アクセスしやすいようにデータを整理するなど管理方法を工夫しましょう。
▼見積書の電子化について詳しく知りたい方はこちら
見積書に印鑑は必要?PDFでも有効?見積書に関する疑問を解決
企業間で取引を行うにあたり、見積書は欠かせない存在です。普段の業務で見積書の取り扱いに慣れていない場合、見積書の役割や見積書における印鑑の必要性などについて明確に把握できていないこともあるでしょう。 本記事では見積書とは何か、また見積書への印鑑の必要性についてご説明します。近年増加傾向にある「電子データによる見積書」についても詳しくご紹介しますので、参考にしてみてください。
納品書や請求書の電子化にあたっては、所轄の税務署に申請し承認を得る必要があります。システム導入や社内ルールを整備した上で、電子化による記録開始の3か月前までに申請を行います。
参考:https://www.nta.go.jp/law/joho-zeikaishaku/sonota/jirei/04.htm
契約書をはじめ、紙書類を電子化することにより、コスト削減、業務効率化を加速させることができます。テレワークも実施しやすくなり、働き方の改善にも繋がるでしょう。
契約書の電子化を進めるにあたっては、シヤチハタの電子契約システム「Shachihata Cloud」の導入がおすすめです。今お使いの印鑑、それまでの業務プロセスを変更することなく、そのまま電子化へ移行させつつも、業務効率化を行うことができます。無料トライアルへお申し込みください。
※電子署名法上対応できない書類もあるため、契約書の電子化にあたっての詳細は顧問契約されている弁護士などにご確認ください。
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