「働き方改革」という言葉が社会に根付いて久しいですが、具体的にどんな内容で何が変わるのか、正しく理解できていますでしょうか。従業員からすればメリットばかりの働き方も、落とし穴が生じる場合もあります。働き方改革の本質や成功事例から、自社がどう働き方改革と向き合うべきなのか、考えてみませんか。
政府が定めた法案により、2019年4月より順次、「働き方改革関連法案」が施行されるようになりました。働き方改革とは、従業員の従来の働き方を改めライフワークと仕事のバランスを図り、より一人ひとりのQOL(生活の質)向上を目指したものです。
過去には、「24時間働けますか?」という謳い文句がテレビCMで自然に流れていたこの日本で、なぜ、働き方改革という法案が必要になったのでしょうか。
労働基準法違反も珍しくなかった社会に「働き方改革」を推し進めるよう指示を出した日本政府。その目的は、表面だけを見れば「働く人間が仕事に精神的苦痛を感じないよう、企業側も努力しよう」という、従業員側に寄り添ったものにも思えます。しかし中身をよく知れば、日本の未来を安定させるための法案だというのがわかるでしょう。
現在、我が国の後期高齢化は深刻な状況です。これまで日本の人口は、4人に1人は高齢者といわれていましたが、2036年には3人に1人、2065年には2.6人に1人以上が高齢者となる時代だと予測されます。
今後、家族の介護やケアを行いながら、仕事をする従業員も増えてくるでしょう。 働き方改革により、柔軟性のある働き方が企業や社会に浸透することによって、 従業員の仕事上の負担や精神的な負担の軽減につながるでしょう。
また、高齢化の大きな原因である「出生率の低下」も、女性が働きながら子供を育てられない環境に起因していると考えられます。
女性が子育てをしながら働ける、家族に高齢者がいても介護・仕事を両立させられる、働き手が充実していることで労働力を確保し、日本経済が活性化するなど働き方改革の目的は「長い目でこの国の未来を改革すること」といえるでしょう。
参考:http://www.ipss.go.jp/pp-zenkoku/j/zenkoku2017/pp29_gaiyou.pdf
具体的に、働き方改革で政府が変革を目指すのは主に下記の内容です。
・雇用形態に関わらず公正な処遇
・長時間労働の廃止
・働き方の多様性
・女性の働きやすい環境作り
・労働賃金の向上
・再就職に不利な市場状況の打破
・ハラスメント対策
ニュースやインターネットで取り上げられることの多いのは、特に上記の7つです。従業員が、仕事に意欲的に取り組める環境作りを促した内容で構成されているのがわかります。
全てを一企業で取り入れるのは難しいかもしれませんが、働き方改革によって多くの企業が少しずつ、従業員に寄り添った姿勢を見せているようです。
働き方改革に伴い、企業がすべきことは法案に沿った就業規則を取り入れることです。
しかし実際は、大幅な規則改正は企業に根付くまで時間がかかるもの。結果が出るのを待つよりも先に、運営側や上司、上に立つべき人間が、従業員に対してやるべきことがあります。
やみくもに、働き方改革を意識した就業規則を取り入れても、従業員の労働意欲は上がらないでしょう。まずは従業員一人ひとりを理解し、会社に対して何を求めているのか、把握するのが大切です。従業員が持つキャリアプランの把握や、現在のオフィスへの不満など、上層部が従業員に向かい合う姿勢そのものが、「従業員にとって働きやすい環境」の根本だといえるでしょう。
働き方改革の大前提は、「従業員にとって仕事を続けやすい環境作り」にあります。もし、働き方の制度そのものではなく、従業員がオフィスの人間関係に悩んでいたら?
いくら制度や働き方の選択肢を充実させても、これでは従業員の労働意欲は向上しないでしょう。
働き方改革を機に、オフィスの人間関係や社内文化も、今一度見つめ直してみてはいかがでしょうか。
ストレスは仕事の生産性だけでなく、その人の生活の質も下げてしまいます。何がストレスかは人それぞれですが、オフィスで解決できる内容なら、改善を試みましょう。
例えば、満員電車がストレスになるのであれば、リモートワークを検討してみてはいかがでしょうか。他にも、デスクの場所やオフィスの人間関係にストレスを抱えているならば、好きなデスクで仕事ができるフリーアドレス化など、働き方の選択肢を広げることで、解決できるストレスもあるかもしれません。
従業員にとって、良いことが多いように思える働き方改革。運営側からしても、従業員の生産性が上がり、企業利益を生み出す内容です。しかし、働き方改革によって生まれてしまった落とし穴もあります。
働き方改革に伴い、リモートワークを取り入れる企業が増えてきました。お互いのコミュニケーションもデジタル化し、相手の顔を見ず、事務内容だけをチャットなどで交わすことも増えています。その結果、従業員同士のコミュニケーション不足が発生します。
コミュニケーションが不足することで、伝達の滞りや従業員同士の意思の疎通ができなくなり、仕事面でも影響が出てしまいます。企業によっては定期的なオフィス出社を義務付けたり、部活動を盛んにするなどして、慢性的なコミュニケーション不足への対策をしているようです。
顔の見えない相手と仕事をすることも増える中、問題視されているのはコミュニケーション不足だけではありません。書類のやりとりもメールで対応する現代の働き方では、その手軽さと楽さがアダとなり、承認セッションを遅らせる可能性もあります。
書類を送る側からすればメールでの書類送付は、郵送や直接持ち込みに比べ手軽なものですが、受け取る側からすれば手間が増えてしまう可能性もあるのです。
例えば、リモートワークにより、自宅で仕事をしている従業員にメールで書類を送るとします。彼らはその書類をプリントアウトし、印鑑を押して再びパソコンにスキャン、返信をしなくてはなりません。しかし、顔が見えていないのと、自分のペースで仕事ができる環境により、面倒な承認作業がつい後回しになりがちです。
電子印鑑を取り入れ承認化を簡単にするなど、対策をとることでスムーズな承認セッションを得られるでしょう。
働き方改革では、長時間労働を良しとしていません。そのため、多くの企業が従業員に残業をしないよう指示を出す機会が多くなりました。残業が無くなり喜ぶ従業員もいますが、中には「残業代カット」を悲観する従業員もいるでしょう。
これまでの残業代をどう従業員に還元していくか、企業の中には
・有給取得の強化
・残業代を固定支給
・従業員の休暇を増やす
などを取り入れ、対策を練っているところもあります。
参考:https://bowgl.com/workstyleinnovation-overtimemoney/
働き方改革に頭を悩ます企業が多い中、独自の働き方改革で従業員ロイヤリティと生産性を向上させた企業もあります。
北欧家具メーカーで知られるイケア・ジャパンで重視した働き方改革は、「非正規雇用と正規雇用の賃金・条件の差をなくす」という点です。
外国人スタッフも多く、様々な年代が働くイケア・ジャパンでは、パートタイムスタッフなど自由な働き方をする人が常駐しています。
彼らの仕事量が正規雇用従業員と変わらないことから、同社では非正規雇用社員も正社員と同じだけの給与を保証。福利厚生や社会保険も正規雇用社員と同等水準を提供しています。
人件費のコストがかかる、と思わる政策ですが、イケア・ジャパンでは同費用に関して「投資」と考えているようです。
結果、報酬額のアップや保険・福利厚生の充実がスタッフのモチベーションを維持し、仕事のクオリティの向上、さらに外部から見た企業イメージもアップしました。
参考:https://lightworks-blog.com/workstyle1
通販ファッションサイトで有名なZOZOTOWN(スタートトゥデイ)では、1日6時間労働を取り入れています。昼休みを取らず、9~15時まで働く、という仕組みです。
短い労働時間では仕事量も限られるのでは、と懸念されますが、短時間労働は従業員に「時間を有効に使う」という意識を植え付けさせるようです。
結果、同社では生産性が25%アップし、1人当たりの1日の労働時間も、9時間台から7時間台に下がったとのこと。
思い切ったシステムですが、同社の社風や仕事内容にとてもよく合った内容だったといえるでしょう。
参考:https://toyokeizai.net/articles/-/18028
クレジットカードで知られるクレディセゾンでは、働き方改革における規則や働き方の変革を、「とりあえずやってみよう」というスタンスで取り組んでいます。
なんだかのんびりした雰囲気が漂う取り組みですが、このやり方が功を奏しているようです。
「とりあえずやってみよう」と気軽に言えるのは、同社の取り組みが「規則の変更なく取り入れられる働き方」ばかりだからだといえます。
規則を変えるような大きな働き方の変化は、会社に根付くまで時間のかかるもの。
それならひとまず、できることから少しずつ変化させることで、会社と従業員の働き方に対する意識のすり合わせを行います。
働き方をマネジメントするチームも発足させるなど、社員の意見の風通しが良い環境づくりも、お手本にしたい点です。
働き方改革は、大幅な規則改善も大切ですが、まずはできることから少しずつ実施することが一歩となります。従業員を理解し、改革すべきことに優先順位を立て、オフィスや働き方の変化を自然と根付かせることが重要です。
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