経費削減や業務効率化を目的として、電子契約を導入する企業が近年増えています。紙に印刷して押印する手間が省けるため、特にテレワークを推進する企業においてはメリットが大きいイメージがあるでしょう。しかし、電子契約を導入するにあたってはメリットばかりではないため、デメリットも考慮した上で、導入を決めることが大切です。
本記事では電子契約を利用するメリット・デメリット、導入時の注意点やその対処法についてご説明します。
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まず、電子契約を導入するメリットを4つご紹介します。
電子契約を導入するにあたっての最大のメリットは業務効率化です。紙書類の場合には、書類を作成した後に印刷をし、製本、押印、郵送という一連のアナログな手続きが必要となります。また書類を受け取った相手方が手に取るまでに時間がかかるため、スムーズな契約締結が望めませんでした。
しかし、電子化すれば、契約に必要な一連の手続きを省略することができます。
紙書類の準備には、以下のような費用がかかります。
また、一連の契約プロセスや、紙書類の管理のため、人的コストも必要です。電子契約へ移行すれば、メールなどで簡単に相手方へ送付することができるようになります。
さらに特筆すべき点は、電子契約を利用すれば、契約書にかかる収入印紙がいらなくなることです。印紙税は契約金額に比例して費用が上がるため、大規模な契約を締結する業種のコスト削減に大きく寄与するでしょう。
(表)電子契約導入により削減可能なコストの例
・印刷代、コピー用紙代 ・インク代 ・封筒代 ・郵送費用 ・印紙代 ・その他の人的コスト |
紙の契約書は場所を取るものの、捨てるわけにはいかず、これまでは専用のキャビネットなどを利用して書類を保管していたでしょう。対して電子契約書は、自社サーバなど電子的な方法で行われるため、これまで契約書の保管場所として利用していたスペースが不要となります。
紙の契約書のほうが信頼性が高いと思われがちですが、むしろ紙書類のほうが改ざん防止が困難です、改ざんが疑われる場合、調査には労力を要します。
一方、電子契約は、誰が・どこで書類に関わったのかをログとして記録することが可能です。署名の本人証明の仕組みも備わっているため、コンプライアンス強化に役立ちます。
良いこと尽くしのようにも思える電子契約ですが、以下のような点には注意が必要です。
電子契約は、取引相手の同意が得られて初めて成立するものです。そのため、電子契約を導入するにあたり、取引先の理解を求める必要があります。サービスの種類にもよりますが、取引先へ電子契約システムを利用するよう依頼しなければなりません。
▶️電子契約を求められたらどうするか詳しく知りたい方はこちら
新しい仕組みを導入する際には、既存の業務フローへの影響を見直し、変更する必要があります。書面契約で対応してきた従業員にとっては、新しいフローの受け入れに抵抗を感じるケースもめずらしくありません。したがって、電子契約は、相手の実務状況を理解した上で導入に向けての社内調整を進める必要があります。
電子契約の場合、サイバー攻撃を受けるリスクがゼロではありません。よって、セキュリティレベルの基準は重視すべきポイントです。近年は電子契約システムのセキュリティレベルも向上しているとはいえ、導入にあたっては、どのようなセキュリティ対策が設けられているかチェックすることが大切です。
現時点では、まだすべての契約を電子化できるわけではありません。任意後見契約や事業用定期借地契約など、書面化が義務付けられている契約が存在します。また、電子契約の利用に相手方の要望もしくは事前承諾を要するものもあるため、あらかじめ意向を確認するよう注意してください。
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ここで、そもそも電子契約とはどのようなシステムなのか一度おさらいしておきましょう。
電子契約とは、従来は紙書類と印鑑の押印で成立させていた契約書のやり取りについて、電子書類で行う契約のことです。押印の代わりに、電子署名や、いつ押印されたのかを記録するタイムスタンプが書類に付与されます。
電子契約には、当事者型と立会人型の2種類があります。当事者型は、当人同士の責任のもと電子署名が施され、認証局が発行する電子証明書を付与することで、より強力な本人性を証明できる契約手段です。一方、立会人型では、メール認証などで本人確認がなされ、契約者の指示を受けた第三者によって電子署名が施されます。当事者型は証拠能力が高いものの本人確認の手続きが煩雑なため、より手軽に契約を締結できる立会人型の電子契約システムを選ぶ方が少なくありません。
▼電子契約システムの導入方法について詳しく知りたい方はこちら
続いて、電子契約には法的効力があるのか、次の2つのポイントからみていきましょう。
電子契約と書面契約の法的な有効性は変わらない
電子・書面における契約の違い
電子署名法第3条に基づき、電子署名や電子証明書、タイムスタンプが付与された電子契約は、書面契約と同程度の法的効力が認められています。効力の根拠は、電子署名法第3条です。民事訴訟法第228条の「二段の推定」に基づき、本人確認の措置が講じられた電子契約でも、法的効力が認められています。
そもそも、あまり知られていないことですが、契約書や押印・サインは商習慣の一つであり、実は押印という行為自体に法的効力はありません。そのため、本来は契約媒体にかかわらず、それだけでは効力の証明は不可能です。大事なポイントは本人性であり、これが証明できれば本人の意思による契約であるとして法的に効力を持ちます。
電子と書面の契約における主な違いは、以下のとおりです。
電子契約 | 書面契約 | |
媒体 | データファイル(PDF等) | 紙 |
相手方とのやり取り | インターネット(メール) | 郵送 |
押印 | 不要 | 要 |
本人証明手段 | 電子署名・電子証明書 | 印鑑登録 |
改ざん防止対策 | タイムスタンプ | 契印・割印 |
保存方法 | クラウド・サーバー | ファイル・書棚 |
印紙税 | 不要 | 要 |
ここで、電子契約の法的効力について、関係する法律の概要とともにご説明します。
電子帳簿保存法とは、国税関係の帳簿などの重要書類を電子データとして保存する際のルールを取り決めた法律です。企業で取り扱う電子契約の書類は、電子帳簿保存法に基づき、保存場所や保存期間などの条件を満たす必要があります。2022年1月1日から改正電子帳簿保存法が施行され、書面の電子化の取り扱いがより簡便化されると共に、電子的に受け取った取引情報は電子データでの保存が義務付けられました。電子取引データ保存義務化に関しては、2年間の宥恕措置期間が設けられていましたが、2024年1月1日からは完全義務化されています。
e-文書法とは、法人税法や会社法などで保存が義務付けられている文書や帳簿などについて、一定条件を満たせば電子書類での保存を認める法律です。2005年に施行された「民間事業者等が行う書面の保存等における情報通信の技術の利用に関する法律」と「民間事業者等が行う書面の保存等における情報通信の技術の利用に関する法律の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律」の2つの法律の通称で、電子文書法とも呼ばれます。具体的には会計帳簿や契約書、領収書、請求書などの会社関係書類、貸借対照表や損益計算書のような企業決算に関する書類が対象です。
電子帳簿法と類似していますが、電子帳簿法は国税庁が管轄する法律であり、国税関連書類の電子化にあたっては税務署長などからの承認が必要となります。
電子署名法とは、電子署名が紙書類の署名や押印と同等の法的効力を持つと定めた法律です。電子商取引を促進する目的で施行されました。第3条では「電磁的記録であって情報を表すために作成されたもの(公務員が職務上作成したものを除く。)は、当該電磁的記録に記録された情報について本人による電子署名(これを行うために必要な符号及び物件を適正に管理することにより、本人だけが行うことができることとなるものに限る。)が行われているときは、真正に成立したものと推定する。」と明記されています。
施行されたのは2001年と20年近く前になりますが、近年電子契約の普及が急速に進む中で、電子署名法の解釈が重要視されています。
IT書面一括法とは、企業が顧客に対し、紙による交付を義務付けている書類について、顧客の同意を前提として電子書類に代替することを認める法律です。電子署名法と同様、電子商取引を促進するための規制緩和策として施行されました。「一括法」という呼ばれるのは、証券取引法や訪問販売法など、関連する50の法律をまとめて一度に改正したためです。
デジタル改革関連法とは、2021年9月1日施行された、全48の法律の押印・書面化に関する義務の見直しなどを図るための改正法です。関連6法には宅地建物取引業法や建設業法も含まれており、これまで書面契約が前提だった不動産および建設業界でも電子契約が利用できるようになりました。
次に、電子契約のシステムを導入するにあたっての注意事項を4つお伝えします。
従来の業務フローにそのまま組み込めるシステムを選ぶ
法律への対応を確認する
段階的に導入する
取引先を丁寧にフォローする
社内規定の大幅改訂が必要なサービスは導入が困難なため、従業員に大きな負担をかけてしまいます。しかし、従来の契約フローにそのまま組み込める電子契約システムなら負担が最小限のため、抵抗感を与えません。慣れたやり方を変える必要がないことから、社内調整や従業員教育もしやすいでしょう。
電子契約システム選定の際は、電子署名法に定められる本人性が確保できる電子署名機能の有無を必ずチェックしてください。電子署名機能がないシステムでは、万が一トラブルが発生した際、契約書が真正であることを証明できません。また、電子契約を導入する際は、改正電子帳簿保存法への対応も不可欠です。法令に沿って保存できる機能を搭載した電子契約サービスを選定すれば、容易に対処できるでしょう。
前述のとおり、仕組みを大幅に変更する際にはハレーションが起こりやすいものです。コストをかけて仕組みを開発したとしても、状況によっては運用がうまく回らない事態も想定されます。現場の運用面で懸念が残る場合には、まず比較的安価に入手できるクラウド型のサービスで試験的に導入してみるなど、段階を踏むことが望ましいでしょう。また、導入初期は書面と電子契約システムの併用もおすすめです。
電子契約を利用するためには、相手方の合意が欠かせません。それぞれが別の契約手段を用いる方法もありますが、双方が同じシステム上でやり取りするのが最も効率的です。取引先に理解してもらえるよう、電子契約の法的効力の信頼性やセキュリティ面の安全性などを丁寧に説明することが大切だといえます。
▶️電子契約の相手方への説明方法について詳しく知りたい方はこちら
最後に、電子契約を導入して成功した事例について紹介します。
株式会社日本教育クリエイト
株式会社日本教育クリエイトは、人と社会に貢献することを理念に掲げ、医療・福祉・保育分野の人材教育を展開している企業です。同社は社内外の契約業務において紙書類の多用による工数とコストの問題を抱えており、承認作業や契約手続きで押印が必要なため、承認者不在時には作業が遅れがちとなっていました。2020年の新型コロナウイルスの流行を機に、テレワーク推進の一環として「Shachihata Cloud」を導入。Shachihata Cloudは既存の印鑑を利用でき、多様な書類での使用が可能なことが特徴です。導入後は社内決裁が迅速に行えるようになり、どこでも承認が可能となったため、承認待ちの時間が短縮され、管理者の負担も軽減されました。さらに、契約書の印刷や郵送が不要になったため、コスト削減も実現しました。導入時には、事前に操作マニュアルを共有してスムーズな移行を図り、導入後の混乱も最小限に抑えられました。
株式会社キャッチネットワーク
株式会社キャッチネットワークは、西三河エリアのケーブルテレビ局として地域に根ざした活動を展開している企業です。年間約8,000枚の紙書類の押印作業に長いリードタイムが必要で、書類の紛失リスクや部門間の移動による労力が大きな課題としてありました。これらの問題を解決するため、社内基幹システムの再構築と同時に電子決裁システム「Shachihata Cloud」を導入しました。Shachihata Cloudにより、どこでも押印が可能となり、リードタイムは最短120分に短縮され、文書紛失のリスク減少と意思決定の迅速化が実現しました。さらに、電子帳簿保存法にも対応しており、セキュリティ面でも安心して使用できると評価しています。今後はすべての書類を電子押印に移行し、電子契約システムの運用を進める計画を進めています。
電子契約の導入により、あらゆる業務を効率化させられるなどの大きなメリットが得られます。しかしセキュリティ対策をはじめ、導入検討にあたってはリスクを最小限に抑えることが肝心です。
シヤチハタの提供するクラウド型サービス「Shachihata Cloud」では、文書を電子化し、電子印鑑の押印、社内や社外を問わずに回覧などができる便利なツールです。電子署名やタイムスタンプなど、真正性を担保できるため安心してご利用いただけます。
さらにセキュリティが強化された上、異なるプラットフォーム間での回覧も可能となりました。社内の業務効率を向上させるために、ぜひご利用をご検討ください。