近年様々な企業において、「DX(デジタルトランスフォーメーション)」推進を求める声が多く聞かれるようになりました。本記事ではDXとはどのような意味か、また国内のDX推進の現状と課題について事例を交えながら分かりやすくご説明します。今からでも着手できるDX推進の取り組みも参考にしてみてください。
DX(デジタルトランスフォーメーション)とは、企業がデジタル技術やデータを活用することで商品・サービスやビジネスモデルを変革し、競合優位性を確立することです。
ただし、DXの解釈には様々な見解があります。DXの発祥は現在から20年近く前に遡ります。
ウメオ大学(スウェーデン)の教授、エリック・ストルターマンは、『Information Technology and The Good Life』(2004)の中で、DXを「ITの浸透が、人々の生活をあらゆる面で良い方向に変化させる」と定義しました。元々はビジネス領域に留まらず、広く社会全体について提唱された概念です。
2018年になると、経済産業省が「DX推進ガイドライン」を公表しました。これはITシステム基盤を構築しDXを実現する上で、経営者が押さえるべき事項を明確にすることを目的として策定されたガイドラインです。
2022年9月、DX推進ガイドラインは、利用者視点から「デジタルガバナンス・コード」と統合され、「デジタルガバナンス・コード2.0」として公表されています。デジタルガバナンス・コード2.0によると、DXの定義は次の通りとなっています。
企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること。
経済産業省 デジタルガバナンス・コード2.0より引用
https://www.meti.go.jp/policy/it_policy/investment/dgc/dgc2.pdf
ITシステム導入による単純な業務改善ではなく、企業が厳しい市場環境でも勝ち抜いていけるような、ビジネスモデル・組織・風土を変革する指針が打ち出されました。
なおDXとデジタル化は同義で捉えられがちですが、両者は明確に異なります。デジタル化とは、業務効率化などを目的として、ITツールを導入することであり、業務プロセスを改善します。
これに対しDXは前述の通り、企業が競争に勝ち抜くための抜本的「改革」です。DXを実現するための手段がデジタル化という関係性です。
DXを語る上で、押さえておきたい問題が「2025年の崖」です。
2025年の崖とは、次にご紹介する課題を克服できずDXが実現できなかった場合に、2025年以降、最大で年間12兆円の経済損失が生じる可能性を警告した言葉です。
現在日本の多くの企業で用いられている基幹システムは複雑化・ブラックボックス化しています。DX推進に不可欠とされるデータ活用ができない、時代遅れのレガシーシステムに依存している状況です。セキュリティ事故や災害、システムトラブル、データ滅失などのリスクは増大し、システムの保守・管理費は高額化していきます。
また、このレガシーシステムを支えているIT人材は、2025年までに定年退職を迎えます。担い手のいなくなる前に、つまりそれまでにレガシーシステムを刷新しなければ、事業機会を失い、国際競争の敗者となる結末が迫っているのです。
参考:経済産業省 DXレポート〜ITシステム「2025年の崖」の克服とDXの本格的な展開〜
https://www.meti.go.jp/shingikai/mono_info_service/digital_transformation/pdf/20180907_03.pdf
続いて、DX推進企業の事例を2つご紹介します。
かつて買い物をするには店舗へ足を運ぶのが当たり前でした。しかし、米Amazon.comは巨大なECプラットフォームを構築し、場所や時間を問わずに何でも好きなものを購入できる世界を築きました。
関連商品や好みの商品はレコメンドされ、買い忘れはリマインドされます。また「今すぐ購入する」ボタンを押せば1クリックで目的の物が購入できます。スマートスピーカーに話しかければ、1クリックすらも必要ありません。次々と購入したくなる独自の仕組みを創造しました。
ヤマトホールディングスでは、2020年1月にグループの経営構造改革プラン「YAMATO NEXT 100」を発表し、今後4年間でデジタル分野に約1,000億円もの投資をしてDXを推進する方針を掲げています。
その後EC事業者向けの新配送システム「EAZY」をリリースしました。イギリスの荷物受取・返品システムDoodleと連携し、建物内の受付や管理人に預けるなど、多様な置き場所の指定ができます。受取場所の変更は配信直前まで可能で、返品もスムーズになりました。
DXをさらに加速させ消費者の利便性を高めるべく、2021年度にはグループを大規模再編し、DX戦略を推進する組織「デジタル機能本部」を設置し、新しいサービス提供の検討を進めています。
参考:
ITmediaエンタープライズ ヤマトHD「特命DX請負人」は300人のIT・デジタル専門チームで何を変えるのか
https://www.itmedia.co.jp/enterprise/articles/2011/11/news033.html
PR TIMES ヤマト運輸の新組織体制を決定
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000024.000067406.html
DX成功事例についてお伝えしましたが、国内のDX推進は課題が大きいのが現状です。
独立行政法人情報処理推進機構による2022年の調査結果ご紹介します。
国内企業ではIT関連の取り組みは進んでいるものの、DXを支える基盤(ITインフラ)の整備が遅れている企業が多いのが現状です。特に、中小企業ではデータ活用の重要性が認識され始めており、適切な人材配置とデータ活用のためのシステム構築が進んでいる部分があります。しかし、DXを支える基盤となるクラウドなどのIT基盤と、プライバシーやデータセキュリティに関するポリシーの整備は、依然として課題として残っています。この状況は、DX推進におけるIT基盤の整備が中小企業にとって重要な課題であることを示しています。
DXの推進における課題は、企業の規模によって異なります。大規模の場合、組織の規模と複雑性が原因で、市場や技術の変化に迅速に対応することが難しいという課題があります。大企業の意思決定プロセスが多層化し、組織構造が固定化されているため、新しい技術やビジネスモデルを導入し実行する際に時間がかかることが原因です。
一方、中規模企業や小規模企業では、主に人材の育成と確保が大きな課題となっています。DXを成功させるには、データとデジタル技術を理解し、活用できる人材が不可欠ですが、中小企業ではそのようなスキルを持った人材が不足していることが多いです。さらに、これらの企業では、デジタル技術への投資を決定し、必要な予算を配分することも課題となっています。資金の制限やDXに対する理解の不足が、効果的な投資意思決定を妨げる原因となっています。
参考:独立行政法人情報処理推進機構 DX 推進指標 自己診断結果 分析レポート
(2022 年版)
https://www.ipa.go.jp/digital/dx-suishin/hjuojm000000idx3-att/dx-suishin-report2022.pdf
ここで、DXの実現に必要なキーワードを3つご説明します。
クラウドとは、ネットワークを介してデータベースやストレージ、メールの送受信など、様々なITツールを扱うことのできるサービスの総称です。
DXの推進にはデータ活用が前提となりますが、膨大な量のデータをオンプレミス型のシステムで収集することは考えにくく、クラウド型のシステムを活用することが一般的です。クラウドを活用することにより、自社での開発費や保守運用費を大きく抑えられ、利便性・セキュリティレベルも向上します。
AI(Artificial Intelligence)とは、大量のデータを人工的にコンピュータに学習させ、知能が必要とされる処理や判断を再現し、活用する技術です。
例えば、飲食店の売上データをAIに学習させ、来店人数や着席時間、回転率などの予測などに用いられます。
IoTとは「モノのインターネット」と訳され、家電製品や電子機器、自動車などといったモノをインターネットに接続し、利用者データを集めながら有効活用できるようにした仕組みです。離れた場所からでもモノを監視・制御・操作できるようになります。
DXの重要性は理解しても、何から着手すべきか分からない方も多いかもしれません。最後に、比較的簡単に始められる取り組みをご紹介します。
稟議書や見積書といった書類の作成・承認・回覧を紙ベースで実施しているという企業もまだ多いのではないでしょうか。クラウド型のワークフローシステムを活用すれば、すべてのフローが電子化され、場所や時間を問わず業務を進められます。外出中でもスマートフォンからアクセスできるようになります。
クラウドを活用したビジネスチャットツール導入により、スピード感のあるやり取りが可能になります。また、Web会議システムがあれば、どこにいても顔を合わせて会議を行うことができます。
DXの成功には、段階的かつ体系的に進めることが早道です。ここでは、DXを実現するための基本的なステップについて、順序立てて解説します。
DXを実現するためには、まず企業全体で共有する明確なビジョンと戦略が必要です。ビジョンとは、企業がデジタル化を通じてどのような価値を提供し、どのようなポジションを目指すのかを定義するものです。そして、将来の市場や顧客ニーズを見据えた長期的な目標設定と、それを実現するための具体的な戦略が必要です。
次に、企業のITインフラとして、クラウドの導入を進めます。クラウドの導入により、データの集約と分析、業務プロセスの効率化、コミュニケーションのスムーズ化など、ビジネスの柔軟性とスピードを向上させることができます。クラウドを利用することで、場所に依存せずリアルタイムでの情報共有やコラボレーションが可能になり、イノベーションの促進につながります。
業務環境のデジタル化に伴い、業務プロセスを見直し、最適化する必要があります。従来の非効率な手作業を見直し、自動化や効率化を図ることが重要です。業務プロセスの最適化によって、時間とコストを削減し、生産性を向上させることができます。また、デジタルデータの活用により、意思決定の迅速化や精度の向上も図ることができます。
DXを実現するためには、デジタルスキルを持つ人材の育成と、デジタルによる変革を受け入れる組織文化の構築が不可欠です。社員教育プログラムを通じて、デジタル技術の知識とスキルを向上させることが重要です。同時に、変革を恐れずに推進する組織文化を醸成していくことも重要です。
DXの取り組みは、一度のプロジェクトで完結するものではありません。市場や技術の変化に応じて、定期的に評価を行い、必要に応じて改善を加える必要があります。適切なKPI(業績評価指標)の設定と、定期的なチェックが必要です。継続的な改善を通じて、DXの効果を最大化し、持続可能な競争力を確立することができます。
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