この記事でわかること
帳簿・文書の電子保存を検討する企業や個人事業主にとって、文書の保存期間を正しく理解することが重要です。電子帳簿保存法では、法人・個人の申告区分によって保存期間が異なり、加えてスキャナ保存や電子取引への対応も必要です。本記事では、保存期間の基本ルールと、紙や電子データごとの保存方法、保存期間を過ぎた書類の取り扱い方までを詳しく解説します。
電子帳簿保存法では、税務関連の書類や帳簿について、一定期間の保存が義務付けられています。保存期間は、法人か個人事業主か、あるいは申告の区分や対象となる書類の種類によって異なります。法人であれば基本7年、個人事業主であれば5年または7年の保存が必要です。さらに、欠損金の繰越控除を受ける場合など、保存期間が延長されるケースもあるため、自社の状況に応じた対応が必要となります。ここでは、法人と個人事業主それぞれにおける保存期間の具体的なルールを詳しく見ていきましょう。
法人が作成・受領する帳簿書類については、電子帳簿保存法をはじめとする税法により、原則として7年間の保存義務が定められています。これは法人税法や消費税法に基づくもので、主に仕訳帳・総勘定元帳・請求書・領収書・決算関係書類などが対象です。
ただし、一定のケースでは保存期間が最長10年間に延長されることがあります。代表的なのが、欠損金の繰越控除を適用する場合です。欠損金とは、ある事業年度における損失(赤字)のことを指し、これを翌年以降の黒字と相殺することで税負担を軽減する仕組みです。2018年4月1日以降、税制改正により欠損金の繰越控除の適用可能期間は9年から10年に延長されました。それに伴い、該当する事業年度に発生した帳簿書類の保存期間も10年間へと変更されています。たとえば、2023年3月決算の会社が欠損金の繰越控除を受ける場合、帳簿の保存期限は2033年5月末までとなります。
また、「保存期間の起算点」にも注意が必要です。起算点とは、保存期間のカウントが始まる日を指します。法人の場合は、「その事業年度における確定申告の提出期限の翌日」が起算点です。たとえば3月末決算であれば、確定申告の提出期限は5月末となるため、保存期間は6月1日から起算されます。
さらに、法人では税務調査への対応や内部統制の観点から、最低限の保存期間以上に帳簿類を保管しておくケースも少なくありません。会計監査や取引先とのトラブルを想定して、重要な契約書や会計帳簿を長期間保管することは、企業リスクを下げる有効な手段といえるでしょう。
帳簿保存を電子化する際にも、この保存期間と起算点は変わりません。電子帳簿保存法の要件を満たしていることを前提に、適切な保存措置を講じることが必要です。
参考:国税庁 No.5930 帳簿書類等の保存期間
個人事業主における帳簿や書類の保存期間は、青色申告か白色申告か、さらに書類の種類によって異なります。保存義務の範囲や期間は、事業規模や所得状況によって変動するため、表形式で整理して確認することが重要です。個人事業主の保存期間は以下の通りです。
保存期間 | 青色申告で保存が必要な書類 | 白色申告で保存が必要な書類 |
7年 | ・帳簿(仕訳帳、総勘定元帳、現金出納帳など) ・決算関係書類(損益計算書、貸借対照表) ・現金預金取引等関係書類(領収書、通帳、小切手控など) | ・法定帳簿(収入金額・必要経費を記録した帳簿) ・現金預金取引等関係書類(領収書、通帳など)※事業規模が一定以上の場合 |
5年 | ・固定資産台帳、売掛帳、買掛帳などの任意帳簿 ・請求書、納品書、契約書などの取引書類 ※所得が300万円以下の場合、現金預金取引等関係書類も含む | ・任意帳簿(固定資産台帳、売掛帳、買掛帳など) ・請求書、納品書、見積書、契約書などの取引書類 |
表から分かるように、申告区分に関係なく共通する書類もあれば、青色申告者に特有のものもあります。また、白色申告者であっても、課税売上高が1,000万円を超える「消費税課税事業者」に該当する場合は、取引書類などを7年間保存する義務が生じるため注意が必要です。
保存期間の起算点は、「確定申告の提出期限の翌日」です。個人事業主の確定申告の提出期限は毎年3月15日なので、たとえば2025年分の書類の保存期間は、2025年3月16日から起算されます。
このように、個人事業主の帳簿保存は「誰が、どんな書類を、どれだけ保存するか」が複雑に分かれているため、自身の事業規模や申告区分に応じた整理が求められます。
参考:国税庁 記帳や帳簿等保存・青色申告
電子帳簿保存法では、紙で受け取った請求書や契約書などをスキャナで読み取り、電子データとして保存することができます。その場合、一定の要件を満たしていれば原本の紙書類は即時廃棄が可能です。かつては「おおむね1年以内」の保存が必要とされていましたが、2022年の法改正で定期検査の要件が撤廃されたため、保存要件を満たしていれば、スキャン後すぐに破棄できます。ただし、保存前に要件を確認し、誤廃棄を防ぐことが重要です。
参考:国税庁 電子帳簿保存法一問一答【スキャナ保存関係】(令和2年6月)
電子帳簿保存法では、保存の対象となる書類を大きく3つに分類しています。これらはいずれも税務調査や経理処理において重要な役割を担う文書であり、それぞれに対応した保存方法が定められています。書類の分類は以下の通りです。
1. 国税関係帳簿
法人税法や所得税法などの国税関連法令に基づき、保存が義務付けられている帳簿です。主に、日々の取引や会計処理を記録するもので、次のような帳簿が該当します。
これらの帳簿は、紙でも電子でも作成可能ですが、電子で保存する場合は改ざん防止措置や検索機能の確保が必要です。
2. 国税関係書類
税務処理に関連する決算資料や取引証憑などが含まれます。具体的には、さらに以下の2区分に分かれます。
3. 電子取引の取引情報
電子メールやクラウドサービス、EDIなどを通じてやり取りした、電子的に授受された取引情報を指します。従来は紙に印刷して保存していた事業者もありましたが、法改正により、電子で受け取ったデータは電子のまま保存することが義務化されました(2024年1月以降、宥恕措置終了)。対象は、電子請求書・電子領収書、注文書のPDF、Webからダウンロードした納品書など多岐にわたります。
書類の受け取り方法によって、電子帳簿保存法で認められる保存方法は異なります。ここでは「紙で受け取った場合」と「電子データで受け取った場合」に分けて、それぞれの保存方法と要件について詳しく解説します。
請求書や領収書、契約書などを紙で受け取った場合、そのまま紙媒体で保存するか、スキャナで読み取って電子データとして保存するかを選択できます。後者の方法は「スキャナ保存」と呼ばれ、電子帳簿保存法で定められた要件を満たせば認められます。
スキャナ保存には、以下のような保存要件があります。
これらの要件は、不正な改ざんや削除を防止する目的で定められています。また、以前はスキャナ保存を行うには「税務署への事前申請」が必要でしたが、2022年の法改正によりこの手続きは不要となり、導入のハードルは大きく下がりました。
なお、スキャナ保存を行う場合でも、運用体制の整備や内部統制が求められるため、信頼性の高いスキャナ保存対応システムを利用することが推奨されています。
メールやクラウドサービス、Web請求書などを通じて電子的に受け取った書類は、「電子取引」に該当します。電子帳簿保存法では、このような取引情報を電子データのまま保存することが義務化されており、紙に印刷して保存することは原則認められていません。
対象となるのは、次のような電子取引です。
電子取引データの保存には、以下のような要件を満たす必要があります。
なお、2024年1月以降、宥恕措置(猶予措置)が終了したことで、すべての事業者が対象となり、電子データで受領した書類は電子のまま保存しなければならないことになっています。
参考:国税庁 Ⅰ通則【制度の概要等】
電子帳簿保存法における保存期間を過ぎた帳簿書類については、法令上の保存義務は終了します。そのため、電子データであれば削除、紙であれば破棄して差し支えありません。
ただし、すぐに処分するのではなく、契約書や決算書などの経営上の根拠となる書類は、保存期間後も継続して保管しておくケースが一般的です。特に電子データの場合は、保管スペースの問題も少ないため、重要書類は長期保管しておくと安心です。
なお、廃棄する際には、漏洩や復元のリスクがないよう、適切な削除・処理方法(シュレッダー、完全削除など)を徹底しましょう。
帳簿書類や契約書などの紙文書は、保存期間が長くなるほど管理が煩雑になり、保管スペースや人的コストの負担も増大します。特に契約書や請求書などの重要文書は保存義務が長期にわたるため、効率的かつ確実な管理方法が求められます。
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